・ニセモノか、リメイクか? その3
ずいぶんと以前、ある大きな骨董ショーへ行ったときの話です。会場内を歩いていると、あるオバチャン業者とバッタリ出会いました。
挨拶後、各々ブースを回って品定めしていましたが、しばらくすると遠くからオバチャンが興奮しつつ声を掛けてきます。「○○君、××(←某出店業者名)、がおかしくなったよ。この伊万里が2万5千円だって…」。この「××」というのは私が非常に苦手としている業者だったのですが、それはさておき、拾い物に興奮したオバチャンが手にしている品を見て私は目が点になってしまいました。「それ、今作ってるやつですよ…」。
それは、唐草模様が入った手桶型の陶器でした。もしこれが古い品なら、2.5万は安いでしょう。ある程度の大きさがあり、手桶という変型作品でしかも人気の唐草図。しかし、私はオバチャンが遠くから声を掛けてきた時点で、手にしている物が現代製だとわかっていました。いや、何も私が目利きだと言っているのではありません。大抵の古美術商や骨董ファンなら一目でわかる品です。それよりも、なぜ私が柄もわからないような遠目で見てわかったのか? 何のことはない、以前ある倉庫で段ボール箱に入ったこの陶器を何百個も見ていたのです。
相変わらずそそっかしいこのオバチャンですが、私が「今の物」と言うと、やおら手にした焼物を細かく見始め、「…ホントだねぇ。やられたのかしら…」と言いつつ、返品のため今来た道をサッサと引き返していきました。売った業者は返品を一度は突っぱねたようですが、オバチャンもしつこく喰らいついたため、大型骨董ショーという場所柄か最後は渋々応じたようです。相場を外して売る方も売る方ですが、買う方も買う方。正直、どっちもどっちの醜態でしょう。この品、中国(台湾だったかもしれません)でたくさん作られている物で、私が見た倉庫には「薩摩風」や「九谷風」、「中国骨董風」の陶器がたくさん置いてありました。勿論、私が見た品が輸入品というだけで、内外問わずこういった写しの陶器はたくさん作られているのだと思います。
ちなみにこの手桶型の陶器、雑貨屋さんや陶器店で3~4千円くらいで売っていたとしても何らおかしくない品です。花を生けたり鉢カバーとしても使えますし、ちょうどビールやワインの瓶が入る大きさなので、よく友人が遊びに来る方なら氷を詰めてクーラーにするのも悪くありません。作品自体は全く悪意の無い、ごく普通の焼物。しかし、このオバチャンは自分のミスはさておいて「ニセモノをつかまされた」とカンカンに怒っています…。ここまで読まれてお分かりのように、そこにニセモノは存在しませんでした。「引っ掛けようとして品の素性を偽る」、「品物の相場と明らかに違う値段で売る」という行為が「ニセモノ」を発生させてしまったのです。
私はあまり見ないのですが、たまたま見た骨董関連のバラエティ番組やニュースの1コーナーでもこういったケースは見受けられるようです。高額で買わされた古九谷の大皿が今の作品だった。同じく古いと思った中国の立派な陶器が今の物だった…。しかし、そこにあった品はやはりニセモノではありません。単に「現代作っている陶器」なだけです。古九谷の大皿や中国・官窯の名品など、正直言って買えるチャンスなどほとんどありません。例え大金を用意できたとしても、物を探すだけで大変な作業。それでも、そういった物が好きで飾りたい方はいるでしょう。技法を踏襲して品を作りたい陶芸家・職工もいるかもしれない。当然ながらそれは全く悪いことではありません。ところが、真面目に作られた品やお土産でも「オリジナル」として高額売買されると「ニセモノ」になってしまうのです。
前回の記事に書いた時代箪笥。リメイクされた品とは言え、素材は古くデキも立派です。私はこれを必ずしもニセモノ扱いできない品だと考えています。しかし、意地の悪い見方をすれば、もしかすると最初からキズモノをオリジナルとして見せるため巧妙に作られた品物だったのかもしれないのです(「その1」で書いたベテラン業者のAさんは、そう見ていたのでしょうか?)。 プロの集まる交換会ではとりあえず「適正価格」で取引されたものの、店頭ではオリジナル~完品の相場で売られているのかもしれません。商品としてお店に並んだときは、ある意味「ニセモノ」として存在しているのかもしれないのです。
もし、この箪笥を「オリジナル」として買って、後で手が加わった物と知ったら購入者はこう言うかもしれません。「ここに直しがあるじゃないか」「この金具と木は合っていないじゃないか」「こんなニセモノを売るなんて…」。手桶型の焼物にしても箪笥にしても、品物を作った人・直した人がどんな意図を持っていたかに関わらず、売買の場その時その時で商品は「ホンモノ」にも「ニセモノ」にもなりうるのです。
※この話の「その4」は『裏美術売買』に掲載します。
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