・才能ある作家 その1

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 その作家と出会ったのは、あるアート系イベントの会場でした。

「GEISAI」。若手アーティストに作品の発表・発売といった場を提供し、審査によって順位を決めたり賞を与えたりするイベントです。若手の作品だけあって来場者も安く作品を手に入れられますし、アーティスト側も美術関係者や作家同士知り合うチャンスが生まれる有意義なイベントと言えるでしょう(ここのところ、ちょっとパワーが落ちている気がしますが…)。

 当日の会場は六本木ヒルズ。私は、開始時間や集合時間といったものがあると大抵それより早く着いてしまうというクセみたいなものがあるのですが、案の定その日も開始時間の30分前に着いてしまいました。しかし、目当ての作家がいる方も多いのでしょう。既に会場前には20~30人程度の行列ができていました。その列に並んでいると、見覚えのある人がこちらに向かって歩いてきます。

 その方は現代美術の画廊でたまに見かけるコレクターで、お互い顔見知りでした。「やれやれ、これで雑談しながら時間つぶしができる」。挨拶もそこそこに、私はその方といろいろな話をしました。美術商同士の情報交換も大切ですが、コレクターと話すのは非常に有意義なこと。コレクターならではのマーケット情報、物の見方などがわかりますし、美術商より最新の情報を持っているケースが多いのです。コレクターが品を買って(作家を評価して)動きや相場を作る~それを察知して美術商が作家を追いかけるパターンも多いので、情報が早いのはある意味当然なのかもしれません。

 さらに、その方はある能力というか、特技のようなものを持っていました。その方が目を付けた作家(画家)は、そのとき無名でも後になって売れていくのです。よく、「CMに出ていた女の子が可愛いと目を付けていたが、その後売れた」とか、「ちょっと耳にした音楽が良いと思っていたらヒットした」と言う方がいますが、それは多くの人がそう思うからこそ売れるのでしょう。「目を付けた作家が売れる」というのとは、ちょっと意味合いが違うのです。

 万人が「凄い」と思える作品があれば、その作品は名品かもしれません。が、絵画や陶器といった世界では単なる凡作である可能性もあります。音楽や文学、絵画などには密接な関連性がありますが、もっと現実的な点~マーケットやニーズ、作品の価格設定等に大きな違いがあるのは事実。売れそうな絵画や陶器を見抜くのは困難とまでは言いませんが、知識・情報量に加え、独特のセンスが必要なのは確かでしょう。TVをつけていれば向こうから飛び込んでくる「最初から厳選された」タレントや音楽に着目するのとは全く異なり、星の数ほどいる無名の作家を自ら歩いて発見する難しさがあると思うのです。

 ともかく、その方曰く今回のイベントでも注目している作家がいるとの話。私は、しばらく一緒について周ることにしました。

 イベント開始直後、真っ直ぐ向かったブースにいたのは、ある若い女性画家でした。壁にある絵は、普段こういった作品をあまり見ない方からすれば、「絵画」というより、マンガ的・イラスト的なものに見えるかもしれません(表現が単純過ぎて誤解があるといけませんが、現代美術の最先端にある絵画はそういう作品が多いのです)。しかし、私はそこに並んでいた絵を一目で気に入ってしまいました。正直、筋の良いコレクターが目をつけているという先入観も多少はあったと思いますが、色の配合や絵そのものの面白さは、明らかにその作家の個性・才能を感じさせていました。作品の多くには、一見「可愛い」と思える動物や女の子といったキャラクターが描かれていたのですが、もしこれが「可愛いだけ」ならそこまでの作品でしょう。女の子が描いた、本当に「マンガ」「イラスト」的な絵で終わってしまうかもしれません。ただ、私はそんな中にも遊び心や小悪魔的なもの~さらに進んで、芸術的な「怖さ」や「狂気」を持っているように思えたのです。 

 私は、まだ若いこの作家の絵を買うことにしました。
※その2に続きます

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