・キノコの鑑定 その2
前回の続きです。 キノコ狩りの話には、いろいろな教訓が含まれているようですが…。
キノコ狩りで事故を起こす危険性が高いのは、初心者ではなく1人で山に入りキノコを探せるようになった人だと聞きます。ある程度知識も付き、自分で採ったキノコを誰に聞くでもなく食べられるようになった頃、「ソックリさん」を採ってしまい事故になるのだとか。はじめのうちは、それこそ一つ一つ経験者に聞いてから食べることでしょう。もしかしたら、採る時に少しかじって味を確かめるかもしれません。が、慣れてくれば見つけ方も上手くなり収穫量も増えるというもの。細かなチェックが疎かになるのは、容易に想像できることです。
もっとも、この「慣れた頃が一番危ない」というのは、どの世界にも言えることなのかもしれません。車の運転もそう。山登りやダイビング、あるいはパソコンの作業や何らかの投資などでもそうなのでしょう。そして、これは「骨董」の世界にも当てはまるのです。はじめは知識もなく商品を買うにも慎重。3千円、5千円という「本来ニセモノが存在しない世界」の品でさえ、真贋が気になります。しかし、知識が付いて誰に聞くでもなく品の判断ができるようになった頃「引っ掛かる」のです。
持っている知識が書籍などからのみ得たものだと、さらにこの危険性は高まります。勿論、書籍で勉強するのは極めて有意義なこと。何もしないで、突然知識が湧き出てくるはずはありません。ところが、文字や写真ばかりで実物を見ていなかったり、売買の経験に乏しいと落とし穴にはまるのです。「この焼物には、こういった特徴がある」「この人のサインは、晩年こうなっている」。しかし、別の品にサインだけ入れてしまったような粗悪品を除き、よくできたニセモノ(?)はそういった「約束」を踏襲して作られています。ちょっとした知識があるばかりに「やった!」「掘り出した!」と、作品そのものを見ることなく地雷原に突っ込んでしまう危険性も出てくるでしょう。また、売買の経験がない場合、相場を間違えて失敗するケースも考えられます。よほど気に入った品ならともかく、10万円で買える物を50万円で買っては大失敗。テレビ番組の「鑑定価格」や美術年鑑の「評価額」、あるいは物や作家の「ネームヴァリュー」にのみ囚われると、こういう失敗をすることもあるのです。
ただ、こうした失敗はある意味「初心者」から「中級者」にレベルアップした証とも言えるのでしょう。知識が無ければニセモノの存在する品など買わないからです(あるいは、「高い物」を買えるようになったということなのかもしれません)。と、ずいぶん偉そうに書きましたが、私自身まだ知識・眼力ともまるで足りないのですからお粗末なものです。もしかしたら、この文章を書いている私が一番「ニセモノに引っ掛かる時期」に当っているのかもしれません…。
※その3に続きます。
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