・美術品の鮮度 その2
近年になって何度か流通した商品や、現代製の商品に「うぶさ」はないのかもしれません。しかし、全ての品には価格の高低・時代の新旧に関わらず、「売り時」「買い時」といった別の鮮度が存在しているのです。大した話ではないのですが、以前こんなことがありました。
ここは、何年か前の東京~ある大型骨董市。その中のある売り場で、香炉が売られていました。中堅どころの現代陶芸家による品だったのですが、まずまずのデキ。当時の私としては、ちょっと欲しくなる物でした。ずいぶん以前に書きましたが、私はどちらかと言えば正札で商品を売りたい方です。しかし、多くの古美術商が値切り分を上乗せしている現状で、交渉しない手はありません。そして何より、実際その香炉は「もう少し安ければ買っても良いかな」というギリギリの値段だったのです。そこで、店主に声を掛けることにしたのですが…。
「この香炉、もう少しだけ安くなりませんか?」「ならないよ」。何とも無愛想な対応で、店主は全く負けてくれませんでした。が、これもありでしょう。値段に自信を持って、動かさないのも一つの商売。しかし、売りたい値段を店主が決めるように、私にも仕入れたい値段があります。こういう場合、無理な値段を言ったり、ネチネチ交渉するのはよくありません。値段が合わなければスパッと諦めることも必要。店主が値段を動かさないと感じた私は、一言挨拶してすぐにその場を去りました。遊びや見学ではなく骨董市で仕入れようとするなら、他の人より早く見て回らなければならないからです。
その日は成果の多い1日となりました。開始から1時間も経たず、私の両手は荷物で一杯。一般向けの骨董市でも、業者が「仕入価格」で拾える品はたくさんあるものです(実際、意外なほど多くの古美術商が市を訪れます)。始めから安い値段で売っていた品、交渉の結果買ってもよい値段になった品と様々。が、お互い気持ち良く売買できたのは確かです。値切りはあまり引っ張らず、合わないなら買わず…。そして自分の値踏みより少し高いと思っても、相手が歩み寄ってくれればこちらも歩み寄る。ともかく、買うにしても買わないにしても「呼吸」が大切でしょう。
帰り際、たまたま香炉を売っていたブースの前を通りましたが、その香炉はまだ売れていませんでした。しかし、いったん買うのをやめた商品。諦めきれずに追うケースもあるのですが、そこまでの品でもありません。それに、両手は「戦利品」で一杯~財布は空。私は足を止めることもなく出口へと向かいました。※骨董市開始から1時間ちょっとしか経っていないのに、私は会場を後にしています。一般的に考えれば、まだ「開始直後」といった時間帯なのかもしれません。しかし、先程書いたように骨董市で仕入れたい業者は意外とたくさんいるのです。これに加えて熱心な骨董マニアも大勢いるのですから、開始から数時間経った骨董市の品揃えは…。書くまでもないでしょう。
それから数ヶ月して、またこの骨董市の開催時期です。前回の成果に気を良くした私は、開始時刻に間に合うよう出掛けることにしたのですが…。
※この話の「その3」は『裏美術売買』に掲載します。
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