・競りの妙 その5
進行に沿ってカタログを捲ると、私の茶碗が載ったページへと売り順が回ってきました。
幸い、好調だったオークション前半の売り上げもあり、その時点の計算では1万円で買ったこの茶碗が例え0円でも問題ないくらいのプラスにはなっていました。古美術を扱う商売をしていると、損をする品は少なからず出てくるもの。仕入れた全ての品で利益を出すことなどありえません。そのため、「あそこの交換会で買った品は儲かったな」とか、「先月のオークションで売った品は少し損してしまった」とか、個々に計算するよりもトータルで考える方が多いのです。お付き合いで買ったこの茶碗も、単品で見れば損でも売り上げの足しになってくれれば…、程度に考えていました。
さて、私の茶碗の直前に出されている同じような茶碗が競りにかけられます。「Lot○○番 5000円、5000円…」。いくらでも良い「成り行き」とは言え、一応それらしいスタート価格をオークショニアが設定して競りは始まります。「6000円、8000円、10000円、12000円、12000円、12000円…。 トン(ハンマーの音) △△番に12000円」。「Lot○□番 5000円、5000円…」「8500円、8500円… トン」。まあ、予想通りの落札価格でしょうか? 手数料等の計算は抜きにして、この類の茶碗は売っても買っても1万円前後なのです。そして、私の茶碗が競りに掛けられました。
「Lot○×番 20000円、20000円…」 「???」。
何と、私の茶碗は2万円からスタートされました。しかも、ドンドン競っていきます。 「22000円、25000円、28000円、30000円…」。先程書いたように、直前に出ていた茶碗は相場通りの1万円前後で落札されています。商品に違いこそあれ、私の茶碗も「同レベルのよくある品」。作家(職工)も作品も書付している僧侶の格も、商品として見れば「ほとんど同じ」なのです。いや、書付している僧侶の違いや茶碗のデキでどうしてもこれが欲しいとか、茶碗に付けられた銘~例えば「老松」「残雪」「秋風」といったものが特別気に入ったということも考えられなくはありません。しかし、私の茶碗は書付した僧侶も付けられた銘も(言い方は悪いですが)やはり「よくある品」。箱が新しくて綺麗という以外、これといったアピールポイントなどなかったのです。
それでも、競りが始まってすぐ、私はこの茶碗になぜ競りが発生しているのか気付いていました。
※その6に続きます
« 競りの妙 その6 |
美術売買 TOPページへ
| 競りの妙 その4 »
次の記事を読まれる前に、是非コメントをお寄せ下さい。
『美術売買 骨董・コンテンポラリーを中心に』では、皆様からのコメントをお待ちしております。
記事を読まれてのご感想は勿論、古美術品収集や現代美術にまつわる話、美術品売買のエピソードなどがありましたら是非ご投稿下さい。※コメントは承認制です。表示まで、お時間がかかる場合がございます
コメント
う~ん、どうしてなのでしょうか?
他の出品物が良い物だったので吊られるように茶碗も競りが発生いたのでしょうか?
Posted by: tokusa様
コメント有難うございます。
私の商品は、数百点ある他の方の出品物に混じってバラバラの順で出されています。誰が出しているのか、どの品とどの品が同じ出品者なのか、参加者にはわからないのです。 勿論、直前に出ていた茶碗には無い何らかの要素(価値)を私が見落としていたというオチでもありません。 ところが、同じような品にもかかわらず、私の茶碗だけ高く競り落とされることになります…。
話自体はつまらないかもしれませんが、これからオークョンに参加されようとする方には、次回の記事は少し参考になるかもしれません。
Posted by: @bijutsubaibai
次回の記事が楽しみです。
Posted by: tokusa様