・目利き貧乏 その3
次の登場人物もかなりのご年配。会社を定年退職後、本格的に古美術商として活動を始めたようです。
こういったパターンの業者も意外と多いようで、退職金を元に好きな美術品でも扱おうというのでしょう。うまく行く人、変なものばかり買ってしまいアッという間に消える人といるようですが、この方は相当の知識を持っていました。
中でも得意とするのは「作家物」。つまり、現代の陶芸家による作品です。いや、得意というよりも「好き」と書いた方がよいのかもしれません。若い頃から陶芸家の個展巡りを趣味としていたため、その知識はまさに「美術年鑑」なみ(笑)。かなりマイナーな作家まで、名前を知っていたり面識を持っていたりするのです。
さて、某交換会に行ったときのこと。この方の隣に座りいろいろ話をしていると、たくさんの品に混じってある陶器が流れてきました。ずいぶん以前に物故となっていた、ソコソコ名のある陶芸家の品です。ただ、何度かこのサイトで書いた通り、作家物は表面的な名前の大きさと需要~二次流通価格が必ずしも一致しません。いくら個展で数十万円した作品でも(あるいは美術年鑑の評価額が百万単位の作家でも)人気がなければ古物としての値段はそれほど付かないのです。ネットオークションを見れば数千円という価格でそういった品がたくさん流通していることに、もう皆さんお気付きのことでしょう。
私はその作品を「3500円くらいかな?」と思いました。「かつて評価が高かった作家」「名前はソコソコある」と言っても、現状で仕入れるならこんなもの。それでも3500円と考えたのは、その作品のデキが比較的良かったからです。そうでなければ、3500円という一見「美術品としてメチャクチャ安い値段」すら仕入値として高いのかもしれません。もっとも「その品を買うならいくらか」という話で、今となっては食指など伸びないのですが…。習慣ですので目の前に来た品は手に取ったものの、真剣に見るでもなくお盆に返しました。
会主:「えー、じゃあこういったところが2千円、2千円…」。競りが始まりましたが、作家の名前云々というよりモノの値段でといったところ。美術品としての価値や良し悪しは別の話として、客観的に「流通する商品」として評価するなら妥当なスタート価格でしょう。「2千円、2千円…」。
その時です。私の隣にいた今回の登場人物が威勢の良い声を出しました。「2万円!!」。
※この話の「その4」は『裏美術売買』に掲載します。また、大した話ではありませんが、「目利き貧乏 私の場合~リサイクル編」も掲載予定(※更新 掲載済)です。
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