・美術、骨董業界 狭すぎる… その3
オークションが開始されました。次々と出品される絵画が、スピーディーかつリズミカルに競り落とされていきます。
競り落としているのは、どうも見覚えのある人ばかり…、という気がしないでもないですが(笑)、来場者の多くが美術商とすればテンポの良い競りも当然といったところでしょう。何せ、オークショニアは勿論、落札者側も競りの呼吸を知っているのです。私も画廊の主人も次々と出される品に集中していて、今回の話に出てくる版画のことなどカケラも頭にありませんでした。
とは言え、目の前で扱ったことのある(あるいは見たことのある)品が競られるとなれば気になるもの。いよいよ版画の競り番になると、私と画廊の主人は「いくらで落ちるかな?」などと小声で話しながら、他の品とは別の目線で競りを見守ることにしたのです。
「Lot××、△万円、△万円…」。いくつかパドルが挙がり、版画は淡々とした競りの後で私達の席の少し後ろにいた人が落札しました。まあ、既に画廊の主人の手を離れた品ですし、いくらで売れようが関係はありません。が、何となく私はこの品を買った人が気になったのです。普段、落札者の顔を見ることなどしませんが、それと気付かれないようチラッと振り返ってみると…。
なんと、私と落札者は目が合ってしまいました。そしてこちらを見て笑っています。版画の落札者…。それは、隣にいる画廊の主人から何年か前に紹介され、顔見知りとなっていた別画廊の主人でした。私達はその人が会場にいるのを知らなかったのですが、目が合ってニコッと笑ったのは知り合い同士偶然会場にいたということではなく、隣にいる画廊の主人が以前持っていた品というのを知ってのことだったのです。
私は、美術業界の狭さを改めて実感しました。画廊で見た版画が、日本全国から画商が集まる交換会に出品~落札され、今度はそれを買った人かさらに売買された後か知りませんが、ともかく一般を交えたオークションに出され、結局顔見知りの美術商の手に落ちる…。私から見れば、版画を飾っていた画廊の主人と、その画廊でよく会うこともある別画廊の主人という「ごく近い2人の間」だけで売買は完結したのです。
画商の交換会・一般参加型オークョンという、参加者なら誰でも落札しうる大海原にリリースされながら、言わば隣の家から隣の家へと移動しただけの版画。これを買った画商も商品として仕入れているのですから、近い将来また目にする機会があるのかもしれません。
※以上でこの話は終わりですが、実はある情報が抜けています。どの部分だかお分かりになりますでしょうか? それは、この版画の落札価格。実はこの記事、金銭的な流れを書いてしまうと「全く別の意味を持った話」になってしまうのです。やや具体的な情報が入りますので『裏美術売買』への掲載となりますが、美術品の価格や売買に関しての興味深い側面が見えるこの話題を、後日別の角度から捉えた記事として掲載しようかと考えています。
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