・美術商と信用度 その3
ネットオークションでもweb通販でも、ページの見栄えを良くしてある程度の品を揃えれば、美術商の顔が見えずともいきなり「信頼ある店舗」に見えてしまう。私は何か釈然としないものを感じていました。
この手の美術商。ネットオークションでは比較的高額の品でも1000円からスタートし、吊り上げIDを使う(評価数の低い、ロクに取引していないIDで上に入札してくる)といった手法を取っているケースが多いようですが、「釈然としない」というのはそういった手口のことを言っているのてはありません。感心しないやり方とは言え、オークションでは予算を決め、それを超えたら降りればよいだけです。
前回の記事で書いた通り、気持ちにモヤっとしたものを感じているのは、それを売っている相手の力量や信頼度がわからないからです。結果的に、こういった美術商から落札して贋作を掴んだことはないのですが、どこか腑に落ちない気持ちを感じつつの取引だったことも事実でした(もっとも、贋作のあるような品はネットオークションで買うことがありませんし、見落としと思われるキズ物は何度か経験しましたが、すぐ返品に応じてもらえています)。
また、こんなことも聞きました。ネットオークションではなく、ある現代美術通販サイトの話なのですが、運営者は美術商という感じではなく基本的には委託された品を並べているだけだというのです。さらに、委託された美術品の管理も悪く委託者とトラブルがあったという話も伝わってきました。ところが、このサイトも美術通販サイトとしては、ある程度「有名美術店」と認知されているようなのです。
ホームページを見ると確かに綺麗に作られていて、並べられている品も(見た目では)ある程度の品揃い。買い物もシステマティックにできそうです。ただ、それを売っている美術商の顔は、やはり見えません。通販サイトにしてもネットオークションにしても、全くわからない相手から美術品を買う。物が同じなら、入手のプロセスは違っても結果的には同じなのか、美術品という「趣味の品」だからこそプロセスにも意義があるのか…。
かつて利休の扱った道具は、元は捨て値を付けられていたような物でも高額で求められ、また「利休の眼に適った品」として珍重されました。また、コレクターが「これは〇〇さん(トップクラスの目利きで有名美術商)から買ったんだ」と、品を見せると同時に購入した美術商や店舗の名前まで言ってきたものです。ネットオークションで落札した品は「ネットオークションで落札した」とは言うかもしれませんが、果たして扱っていた店舗の名前を言ってくるでしょうか。いや、お店の名前を覚えているでしょうか…。
私は店舗を持っての仕事をしておらず、修業時代に骨董ショーや出張催事の留守番をしたり、頼まれて骨董市などに何度か出た程度です。それでも、顔なじみとなって下さった方の何人かから「あなたから買いたいんだよ」と言われたことが忘れられません。もしかしたら、それは単なる挨拶のようなものだったかもしれませんし、当時若かった私に対する励ましだった可能性もあるでしょう。ただ、美術・骨董品に関して、私は顔の見える相手から買うことの意義、目筋の良い人や信頼できる人から買う価値が少なからずあるものと考えずにはいられないのです。
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