・良品なのに… その3
長年謎だった「箱のない巨匠の作品」。それを扱っていたオークションユーザーについた評価から、私はその真相を知ることになります。
見慣れない窯印のようなものがある巨匠の作品。これは、当の巨匠に強く影響を受けた別の作家による品だったのです。そして、その作家は実際に巨匠と関わりのある作家でもありました。巨匠が主宰の陶芸グループに一時在籍するなどして活動していたのです。恥ずかしながら、私はこの陶芸家を知りませんでした。
ただ、この作家の品が美術品として二次流通…つまり、古美術の世界でよく扱われていたかどうかと言われると、そうではありません。もしそうならさすがに私も作風や名前を知っていたことでしょう。言い方は悪いのですが、作家の力量は素晴らしいとして、古美術市場ではあまり値段のつかなかった作家ということになるでしょうか? だからこそ、ネットオークションで美術商ですらも判別できず「巨匠作」として出されていたと考えられます。
今回の件、ある巨匠陶芸家に影響を受けた別の陶芸家の品が「巨匠作」として出回ってしまったということなのですが、長年にわたり複数(明らかに別人)から出された作品を見ると、どう見ても故意で「巨匠作」と偽り繰り返し出品している人と、知識が足りず「巨匠作」として出品している人がいるように思えました。美術商として活動していると思われるオークションアカウントから出品されていたこともあるのですが、これは騙そうとしているのではなく「知識不足」が招いたことでしょう。ほとんどニセモノを売っているような業者ならともかく、信用を失ってまで堂々と別人の作を売るとは考えにくいからです。それくらい今回の作品は巨匠の作風に近いものであり、また箱書などがなければ真相に辿り着くのが難しい品だったのです。
私は今回の件と似たようなこと、もともとはニセモノでも何でもない品が、売り手の故意、あるいは勘違いでニセモノ扱いになってしまうという記事を何度か書いています。例えば、手頃な値段で楽しめるよう作られた魯山人写しの食器をホンモノ扱いに仕立てて転売したりするケースでは、器自体は全く悪気のない写しにも関わらず、ニセモノの箱に入れられた瞬間「ニセモノの器」として見られてしまうケースなど。今回の作品も、モノ自体は良いのに別人の「巨匠作」として販売されては、購入者が真相を知った時「だまされた」となるでしょう。
美術商側が気を付けなければならないのは、自分の目が利かず、あるいは知識が足りずこういった品を間違えて販売してしまうことがありえるということです。そして残念ながら、こういうケースは少なくないと感じています。そして購入者側としては、作家の名前ではなく、まず作品を見るのが大切でしょう。今回のケースでは品物自体良品だったものの「その巨匠の作か?」と言われれば疑問が残り、私も入札することはありませんでした。作品そのものが欲しければ、納得できる価格で入札すればよいだけです。しかし、どうしてもその巨匠の作品として購入したい場合、疑問が残れば入札を踏みとどまることもできるでしょう(敢えて行くのも勉強かもしれませんが)。
もう1つ。美術品を買う時は、信頼のできる美術商から買っているかどうかも大事なこと。意図しない間違いや事故が起きたとして、誠実に対応してもらえるかどうか…。いま一度「売り手」を確認するのも大切だと考えます。
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