・虫に注意2

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 先日、ある方のお宅を訪問したときの話です。仕事ではなかったのですが、私が普段古美術品を扱っているとわかると「秘蔵の掛け軸がある」とのことで、物置まで取りに行かれました。

 困ったなと思いつつしばらく待つと、「この書は○○の書いたもので、△△大学の教授に見てもらったところ本物という鑑定結果をいただいたんですよ」。大学教授の鑑定についてはよくわかりませんが、ともかく専門外だし私には詳しい知識がありません。相手は掛け軸の箱を開けながら、笑顔でえんえんと説明してくれています。こういう場合、失礼な話ではありますが相手の機嫌を損ねないよう、本物だろうと贋物だろうと受け流すしかありません。

 こういう経験はよくあるのですが、持ち主が笑顔でとうとうと説明してくれる品は、目も当てられないような品物だったり、書画であれば印刷の場合も多いのです(ちなみに、印刷と言っても明治くらいの印刷物は本当に良くできていたりします)。しかし、この日は別のオチが待ち構えていました。

  その掛け軸は歴史上の有名人が書いた消息(手紙)を軸装した小さな物だったのですが、「どうですか」と持ち主が笑顔でパッと広げた瞬間、私は目が点に…。何と、消息の部分が虫に喰われて派手な迷彩模様になっていたのです。どうやら、表面にある柔らかい作品部だけが喰われているようで、軸の台紙は喰われていないようでした。裏からは確認できないため、作品を持ちながら笑顔で見せている当の本人には見えていないのです。どうしようかと思いましたが、「虫が喰ってますね…」と私が言うと「そんなはずはない」と一瞬慌てたような感じになりました。信じられないのか本体と台紙の区別が付かないのか、本人は実物を見てもまだ気が付きません。しかし、光に透かしてみると一目瞭然。自慢の掛軸は「迷彩模様」です…。

 その掛け軸が本物かどうかわかりませんでしたし詳しくも見なかったのですが、大切にしていた軸が虫に喰われておりさすがに気の毒になりました。黙っていれば良かったのかも知れませんが(勿論、途中で本人が気付いたとは思いますが)、これ以上虫に喰われないよう正直に告げ、対策を施してもらった方が良いと考えたのです。もっとも、手遅れ状態ではありましたが。

 以前も書きましたが、掛け軸の扱いは難しいです。何かの事故で折れたり破けたりする以外に、湿気や乾燥によるシワ・折れ、カビ・シミの発生、作品の経年変化、そして虫喰い。一番単純かつ効率的な対策は、ともかく長期間しまいこまずに飾ることでしょう。たまには状態を確認するついでに箱から出してあげないと、品はどんどん朽ちてしまいます。

 また、以前「虫に注意」という記事に書きました通り、掛け軸に限らず陶器・その他の古美術品もたまには外に出して鑑賞する、あるいは飾ることをオススメします。陶器自体は虫に食べられることがなくても、箱を開けたら虫がいたり箱を喰われるケースもよくあるからです。

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