・魯山人の汲出
先日、北大路魯山人の作品を扱いました。ポチポチ扱ってはいるのですが、感覚的には久しぶりの取引。ただ、作品はちょっとだけ難有りだったのです…。
共箱だったのですが、箱書によると「汲出 五」となっていました。汲出と言っても、通常の小碗タイプではなく茶碗に近い大きさを持つ品です。同様の作がバラバラになって「茶碗」「小服茶碗」などと極書されているケースもたまに見かけてはいたのですが、共箱にまとまって入っている品を手にするのは初めてでした。魯山人の作品中では、比較的真贋の判断がつきやすい作とも言えるでしょう。
しかし、その箱には5客中4客の汲出しか入っていませんでした。しかも、2客に小さいながらもホツ(口辺の小さいカケ)、1客に破片は残っていたものの割れありというキズ&ハンパ物だったのです(完品は1客のみでした)。売ってくれた相手は比較的大手の古美術商で普段からお世話になっている方だったのですが、キズあり~直して売るのに時間がかかるということで、安く売ってくれたのです。
現代作家の陶芸作品において、キズというのは致命的なマイナス要因となります。古陶磁器なら、ある程度時間の経過で仕方ない部分~それを考慮して価格が決まるものですが、近年の陶芸家が作ったものにキズがある場合、古陶磁器の場合とは比較にならないくらい価値が落ちてしまうのです。しかし、魯山人の場合は需要が多いため、キズがあってもある程度売買の対象となっているのはさすがなところ。 古陶磁器なら金直しを使うことが多いのですが、今回は作家物ということでキズを見せないようにする共直しを選択~腕の良い方に頼んで修復しました。
しばらくして返ってきた作品は、見事なくらいに直っていてキズが判別できません。このまま黙って無傷と言っても売れそうなものでしたが、そういう事をしていると古美術商としての姿勢が疑われます。ともかく、1客欠ながら共箱に入った作品が商品として売られる状態になりました。
頭の良い業者なら、1客ずつ箱書してもらってバラバラに売ったかもしれません。茶碗と箱書されれば商品の格も上がりますし、その方が儲かったでしょう。しかし、面倒というのもありましたが、せっかくの共箱があるのと4客とは言えまとまっていること、それにキズを説明して売りたかったため、知り合いの陶器コレクターに直接話をしました。もともと魯山人を欲しがっていたこの方は大喜び。元の買値が安かったため修理費を考えても倍以上では売れたのですが、それでも相場を考えればかなり安かったと思います。見えなくなったキズを「え~、見えないですがこの辺に小さいカケがあるはずでして~」などと丁寧に説明しましたが、高額商品でもバンバン使用するタイプの方だったので「使えればいいよ」と早々にお金を支払ってくれました。
すぐに売れたのも良かったですが、バラさず、また共箱のまま正直に説明してコレクターに収められたのは良かったと思っています。元々大きなコワレでなかったとは言えあれほど見事な修復。バラで流通したら、きっとキズなしとして通っている事でしょう。
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