・売買の深淵
交換会での話です。ある商品が3つ山になって出てきました。山というのは、1つでは安くて売れない物をまとめて売ったり、同じような種類の商品を揃えて売ったりすることです。
こういう物は、お盆の中全部と言う意味で「盆中」と呼ばれたりもしますが、量産品の花瓶や贈答品の陶器など5個、あるいは10個で千円・2千円ということも珍しくありません(ここでいう「個」とは1ロット~ティーセットなども1個ということです)。また、良い品が山になってかなりの高額になる場合もあります。
ある交換会での競りで、私は山になった3つの内1つの商品を手に入れたいと考えていました。その商品だけは高く売れる自信があったのです。1つだけ欲しい物がある場合「その1つだけ競りに掛けて下さい」などと言ったりすることもあるのですが、残りの2つは(私から見れば)大したことのない品。お願いすると迷惑が掛かる可能性もあったので何も言わず競ることにしたのです。
その3点は、思いのほか高く行ってしまいました。それでも私が落札したのですが、今度は売り手が「それでは売れない」と言って聞きません。私は相場より少し高く落札したと思っていたのですが、相手が渋って市場が止まっていたので会主(オークショニア)が私に目配せしてきたのです。その会主は私が古美術商になりたての頃からお世話になっている方。こうなったら助けるしかありません…。格好をつけてスパッと買ったものの、後から考えれば自分の踏んだ値段を曲げて高く買ってしまったという気持ちで一杯でした。
市場が終わってそんな話をしていると、「うん、高く買ったと思っても、スパッと買ってあげたものはスパッと売れるもんだよ。少なくとも俺の場合はそうだ」と、ある年配の古美術商が話し掛けてくれました。逆にチマチマ競ったような物、さんざん粘り倒して値切ったような品はどういうわけかなかなか売れてくれないというのです。何となく意味はわかる気もしましたが、先程私が助け舟を出して買ったのに気付いていたのでしょう。それで気慰みに声を掛けてくれたと思っていたのですが…。
購入直後その商品を売ったところ、見事にスパッと売れてくれたのです。売れずに不良在庫となる品も多い中、右から左へ売却。しかも、私が欲しかった1点だけで高いと思った山の買値を上回って売れました。正直、残りは安物ですが、売りの利益と残り商品が手に入ったのです。それほど利益が出たわけでもありませんし大した出来事でもないのですが、私は年配の古美術商が掛けてくれた言葉や、何か商売のリズム・呼吸といったもの、あるいは「縁起」という言葉が心に浮かんでくるような気がしました。
占いを信じたりゲンを担ぐ性分ではないのですが、何かもっと奥深いものが商売やお金の流れには隠れているのではないか? という気もするのです。
« オランダの陶器 |
美術売買 TOPページへ
| 売れない○○ »
次の記事を読まれる前に、是非コメントをお寄せ下さい。
『美術売買 骨董・コンテンポラリーを中心に』では、皆様からのコメントをお待ちしております。
記事を読まれてのご感想は勿論、古美術品収集や現代美術にまつわる話、美術品売買のエピソードなどがありましたら是非ご投稿下さい。※コメントは承認制です。表示まで、お時間がかかる場合がございます