・箱の売買

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 骨董市(某広場の露店)での話です。あるお店に、有名な陶芸家の共箱がたくさん置かれていました。店主に「これ、中を見て良いですか?」と聞くと、「中は空っぽだよ」。

 作品を保管するにしても箱書にしても、陶器に箱は付き物。古美術商の交換会でも、箱だけ売買されることはたまにあります。どういう箱が流通しているかと言えば…。

 まずは単に現在作っている何も書かれていない木箱。古美術商は、例えば箱屋さんとか紐屋さんと知り合いのケースがあります。そういった人から既成サイズの箱を安く買って、それを会で売り些少ながら利ざやを稼いでる人もいるのです。 

 次に古い箱。古くて雰囲気の良い箱は、ある程度の価格で売買可能です。古陶磁器や時代ある茶道具など、こういった箱に入っていないとサマになりません。道具自体は裸で出てくるケースも多いので、味のある箱は需要があるのです。特別な箱書や札のあるものに入れ替るのは論外ですが、時代箱に見合う商品を入れるのは、裸の作品に服を着せるようなものでしょうか? 競りで金額が折り合わない場合、箱はいらないからと中身だけ買って少し安くしてもらう人や、逆に箱目当てで商品を買う人、商品は買わずに「箱だけ売ってくれませんか?」という古美術商も…。また、箱はAさん、中身はBさんが買って売主や買主が各々の満足を得るケースもたまに見られます。

 そして、箱書のある箱の売買。著名な作家で、書付のある箱が売買されるケースです。近・現代作家の作品は、箱書のある箱(共箱)に入っていないと価値が激減します。そういった理由から、著名な作家の箱は空っぽでもソコソコの値段で売買されるのです。裸の作品でも作家が箱書してくれれば良いのですが、箱書してくれない場合もありますし、何より既に亡くなっている場合もあります。亡くなっている場合、遺族や関係者、鑑定団体が極書する場合と箱書不可能な場合がありますが、極書ですら共箱に準ずるとは言え本人の書いたものには価値が及びません。

 ただ、共箱の場合、サインはと共に固有の作品タイトルも入っています。その品物限定で持っている人、あるいは心当たりがある人は少ないと思うのですが、もし符合する裸の作品を持っていてその箱が加われば、価値は数倍にもなります。また、心当たりがなくてもそれを狙って買っておく古美術商も中にはいるでしょう。 

 ここまで読まれて「空箱にニセモノを入れる人がいるのではないか?」と心配された方はいませんでしょうか? 正直に書けば、ないとは断言できません。箱だけ売買されるような評価の高い作家は、ニセモノも流通しているからです。古美術品の真贋を見る材料として箱書を参考にする方も多いと思いますが、このケースでは箱は本物~中身はニセモノという品が出現してしまいます。しかし、ニセモノを作り出す、あるいは世に出すような人間は、いつの世にもどこの世界にもいるもの。残念ながら、世の中から犯罪がなくならないように、こういった行為をなくすことは難しいでしょう。中身が入れ替わった商品は勿論、裸の品でもニセモノは存在します。結局、最終的には「品物そのもので判断する」という基本が、当然ではありますが重要なのです。

 冒頭に戻って、一般の骨董市~露店で箱を売っていた古美術商。いくらこういう所に業者も来るとは言え、箱書有の空箱のみを売るのは疑問に思えました。もし、裸になっている作品を持っていて、それと符合する箱があったのなら、箱を合わせるのは(一応)ありでしょう。しかし、来場されていた一般の方からすれば、たくさん売りに出されている有名作家の空箱は、かなり違和感を持って見られていたのではないかと思います。

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