・深夜の攻防戦 その1

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 私が古美術商の世界に入った直後と現在では、商売のやり方・情報の伝達方法が一変しています。電話と同じくらいメールが使われるようになり、商品を撮影~お金をかけてプリント~相手に郵送という面倒な作業は、デジカメで撮影~メールに添付で済むようになりました。

 二次流通品を扱う古美術商というのは、横のつながりで商売をしています。お客でも業者でも、ある人から「○○(←商品名)持ってませんか?」という話があれば、在庫がなくとも知り合いから出してもらい商売することができます。そして、売買が成立すれば手数料を得る。美術商やコレクターのつながりが多いほど、手持ちの在庫が多いのと同じでビジネスチャンスも増えるのです。

 その際、流通経路に何人入るかで物の値段や古美術商の利益が決まるのですが、目当ての品へ行き着くまでに4~5人くらいの人が入ってしまう場合も少なくありません。特に金額の大きい取引や珍しい物が対象となっている場合、人数が多くなりがちです。以前ある高額商品の仲介に入った際、人数が多くなり過ぎてしまい手元に来た利益が食事代程度だったこともありました(もっとも、その品自体一度も見ずに右から左へ仲介しただけですから経費はほぼ0ですが…)。こういった商売は元手いらずで利益を得られますので、中には身銭を切らず他人の在庫を使って儲けようとする「賢い骨董屋」もいます。

 ある日の夜11時頃でしょうか? 私は仲の良い同業のAさんへ「○○を買った」と何の気なしにメールを送りました。すると、写真を見せて欲しいというのです。どうやら、たまたまそれを探している人がいて話を持ちかけられているようでした。こちらとしても買った品がすぐ捌けるなら大歓迎。夜の空いた時間ですし、早速デジカメで撮影~メールを送信…。

「伝言ゲーム」ではありませんが、こういう商売は売り手と買い手の間に何人かいるだけに意思の疎通が大変です。一人置いて、誰が誰だかわからない人同士での商売。大して高くない品ではありましたが、持っている私は少しでも高く売りたい(しかし、仲介している人の利益も考えなければならない)、仲介している人は少しでも手数料を得たい、買いたい人は少しでも安く手にしたい…。どうやら、私がメールしたAさんの先にいる人も就寝前のようで、当事者同士の連絡がついている今のうちに取引をまとめたいと考えているようです(勿論、私はAさんの先に誰がいるのか、何人いるのかを知りません)。

「メールでもチェックして寝るか…」とノンビリくつろいでいた夜が一転、何気なく送信したメールから深夜の攻防戦が開始されました。
※その2に続きます

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