・価格表示に要注意 その2
美術、骨董品が出品される一般参加型オークションに知り合いやお客さんを連れて行くと、「みんな高く行っちゃうねぇ」とか、「思っていた予算じゃ買えないよ」などと言われることがあります。
しかし、落札価格を古美術商の立場から見ると、それほど高くない場合やお買い得の美術品も多数見ます。つまり、オークションカタログに記載されたエスティメートが低すぎるのです。具体的な例を挙げてみましょう。先日、「野球観戦」という記事を書きました。この中で「沢村投手のパスポート」について触れていますが、確認のためネットで調べたところ次のような記事がありました。
「東京・銀座で近代美術品のオークションが行われ、元巨人の沢村栄治投手のパスポートが180万円で落札された。出展関係者は落札予想価格を10万円前後としていた(以下略)」。「出展関係者は落札予想価格を10万円前後としていた」とありますが、新聞でこう書かれると「客観的評価額として10万円前後と予想されていた品」と錯覚してしまうでしょう。これを、熱狂的なコレクターが競って、予想を遥かに超える180万円まで行ったと…。
しかし、オークション会社もコレクターもカタログが送られてきた私も、誰一人沢村投手のパスポートが10万前後で落ちるとは思っていません。10万円で買えるなら、スポーツコレクターではない「単なる野球好き」の私でもちょっと欲しくなる値段です。落札価格の180万円が相場かどうかはわかりませんが、もし正確なエスティメートを付けたいならスポーツグッズの専門家に問い合わせたことでしょう。そして「低めに」エスティメート100万円くらい付けたかもしれません。この「エスティメート10万円」は落札価格の正確な予想ではなく、「高い成り行き品です」ということを示しているに過ぎないのです。
低く表示されたエスティメートは多くの入札を促す効果もあるのですが、一つ懸念されるのは美術品や作家の相場自体を下げてしまう可能性があることです。多くの美術商や美術愛好家はこの価格差を理解していると思いますが、それでも「一つの目安」として認識する場合もあるでしょう。まして、カタログを初めて見た人や価格を調べる際に参考とした人は、表示されたエスティメートを「客観的な相場」として鵜呑みにしてしまうかもしれません。カタログを見て「この作品(作家)はこのくらいの価格」と思っていても、実際の落札価格は遥かに上というケースが多くありますので、エスティメートを参考とする際は十分な注意が必要です。
※その3へ続きます
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